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高台にある土地。南側に公園が広がるので、その眺望を最大限に取りこむプランに

その土地ならではの個性を生かす

土地にはそれぞれ個性があります。

高台にあったり、低地にあったり。海の近くだったり、うしろに山が迫っていたり。周囲に畑が広がっていたり、住宅地の中だったり。その土地ならではの「個性」を見極め、その土地だからこその家の間取り、空間の配置を考えることが、私たち建築設計事務所の仕事です。

その土地に立ってみることが最初の仕事。

土地の個性を無視して、心地のよい家を建てることは決してできません。

それはそうですよね、広い畑の真ん中にある土地と、隣家が迫っている土地とでは、当然そこに建つ家の雰囲気や心地よさの概念、部屋の配置などが大きく異なってきますから。

私たちが、お客さまから設計の依頼を受けてまず最初にすることは、家を建てる予定の土地に行き、その土地の中でもっとも良い場所、落ち着く場所を見つけることです。そこに立ち、そこからどの方向を眺めたらいちばん気持ちがいいかを見定めます。そして、日の照り方や風がどの方向からどの方向へ抜けていくかを確認します。これは、とくに夏場の快適さを確保するのにとても重要なことです。

外部の「目線」や「音」もチェック。

さらに、プライバシーの確保についてもこの段階から気を配ります。人通りや車の往来などの他人の「目線」、周囲で聞こえる日常的なさまざまな「音」。それらをじっくりとチェックします。

ひとつひとつ挙げていくとたくさんの項目に渡りますが、現場に行けば、これらのことはおおよそすぐに感じ取ることができます。

こうして土地の個性を見極めたとき、その土地に建つ「心地よい家」の姿が、私たちの頭の中に鮮やかな像を結び始めます。

1 北側から見たところ。建物の入り口に木戸を設置

2 ベランダからのすばらしい眺め

3 木戸を入ると左手に玄関がある。ベランダにも直結する

4 2階のLDKは南側全面を開口に

こちらはすばらしい額縁効果の例。あえて壁をつくり木の姿を切り取ったことで眺めが格段に印象的に

光」と「風」と「眺め」を取り入れる

土地の個性についての情報を得たら、いよいよ家の平面構成の作成に着手します。このときいちばんに意識するのは、「光」のことです。朝日はどちらから入ってくるのか、夏の朝は暑くないか、冬の朝に明るいところで食事ができるか、また、夏の西日は不快なため、西日の状態にも気を使います。

窓は心地よい眺めを切り取る額縁。

光についてのご希望をお客さまに伺うと、たいていの方は、明るいほうがいいとおっしゃいます。明るいのはもちろんよいことですが、玄関も寝室もリビングも明るさ一辺倒になるよりは、光が空間によってきちんと調整された家のほうが、美しいし、暮らしていてずっと心地よいものです。私たちは、陰影のある空間づくりを大切にしています。

光について考えるということは、すなわち「窓」について考えるということです。当然、窓の先に何が見えるかを意識することになります。空が見えるのか、庭が見えるのか、すぐそばの樹木の葉が見えるのか。

目にうつって心地よいものを切り取り、そうでないものは視界に入らないようにする。

同時に、外部からの視線もきちんと遮る。それが、最適な窓の配置です。大開口をつくったのに、一日中レースのカーテンを引きっぱなしでは意味がありません。外の視線を気にすることなく内部からの心地よい眺めを確保することが、心地よい家の絶対条件です。

よい眺めがなければ、内部につくる。

もしあまりよい眺めが得られない場合は、ちょっとした中庭を設けて、それを効果的に切り取る窓をつくるということもよくします。

窓はまた、風の通り道でもあります。とくに水回りには、換気を主目的とした窓を設けます。これも、あるとないとでは空間の快適さに大きな差をもたらします。

1 眺めを取り入れた一例。写真左はベランダ、右は室内

2 障子に葉影が映り、優しい陰影をつくる

3 上の写真の室内からの眺め。美しい山容が見える

4 上の写真の障子と窓をあけるとこの眺めに

引き込み戸を開けると家のほぼ端から端まで見通せる。天井の高さに変化をつけることでさらに広がりを演出

空間をできるだけつなげる

心地よく暮らすこととは、すなわち「楽しく暮らす」こと。私たちはそう考えています。お客さまご一家に楽しく住んでいただける家づくりを、私たちはつねに目指しています。

引き込み戸を使い見通しのよい家に。

楽しく暮らせる家づくりのポイントのひとつは、空間の見通しがよい家にすることです。理想とするのは、家の対角線上の端に立ったとき、反対側の端までが見通せるような空間配置。必ずそうできるとは限らないのですが、その状態に近づけることを意識します。

見通しのよい空間の中で、家族それぞれの姿が見えたり、気配が感じられたりすれば、自然と楽しい会話が生まれます。それこそが私たちが考える「楽しい暮らし」の姿です。

もしも一人になりたいときがあれば、そのときは引き戸を閉めて空間を区切ればいいのです。カナザワ建築設計事務所では、家の内部には基本的に引き込み戸を使います。閉めれば空間を区切ることができ、開ければ戸が完全に壁の中に収納されて、空間同士がつながり、家全体がワンルームのようになります。

優れた回遊性で家事を楽しく!

もうひとつ、私たちが強く意識するのが、「回遊性」です。生活動線が遮られることなく、円を描くようにスムーズに導かれるような間取り──たとえば、洗濯物を洗って、干して、たたんでがすべて近い場所でできたり、キッチンやお風呂、洗濯機に、リビングを通らず直線で行けるようなことを指します。

回遊性のある家で実際に生活すると、奥さまの家事に対する心持ちがすっかり変わるようです。「家事が楽しくなった!」という声が私たちのもとにしばしば寄せられます。

新しい家で家事を楽しむ奥さまたちの笑顔。これは、家づくりに携わる者にとって何よりもの勲章だと思っています。

キッチンの奥が浴室洗面所で、その前にベランダがある。家事動線がコンパクトで作業がとてもスムーズに

吹き抜け空間に設けた極上の暖炉スペース

気持ちのよい居場所をつくる

家の中に広々とした部屋をつくったとします。その真ん中に素敵なソファとテーブルのセットを置いたならば、心地よい暮らしが実現するでしょうか? おそらくそれだけではあまり心地よさを実感できないと思います。

心地よい暮らしには、動線を考慮した気持ちのよい「居場所」があることが大切です。私たちは、そういう居場所を家の中になるべくたくさん設けることを心がけています。

居場所があればその時間が豊かになる。

たとえば、窓のまわりに腰をおろせる場所をしつらえる。そうすれば、そこに座って気持ちよく外を眺めたり、コーヒーを飲んだり、キッチンにいる家族と何気ないおしゃべりをしたりできます。リビングの奥に畳コーナーがあれば、そこでごろんと横になって本を読んだり、ストレッチをしたり、昼寝をしたりできるでしょう。どうですか? 心地よい暮らしのイメージが湧いてきませんか?

前のページで奥さまの話をしたので今度はご主人の話をしましょう。私たちはよくリビングの隅にPCコーナーやちょっとした書斎コーナーを加えたプランを提案するのですが、これはご主人にとても喜ばれます。短時間で集中して調べものをしたいときなど、家族がテレビを見ながら賑やかにしているリビングでするよりはるかにはかどるし、何よりもその時間が豊かなものとなります。

設計図を眺めるだけで楽しい気分に。

そのような気持ちのよい居場所をうまく組み込んだプランができたときは、設計図を眺めるだけでこちらも楽しい気分になります。

その家が完成して、仕上がりを見にいらしたご家族が、こちらが何もいわなくてもそれぞれの居場所に座ってくつろぐ姿を目にするとき、私たちは心の中で小さくガッツポーズをつくるのです。

1 ベランダぎわに腰をおろしたり畳の上でのんびりしたり

2 横長の窓が秘密基地のようで楽しい書斎コーナー

3 2階に設けたカウンター。窓からは海が見える

4 LDKの隅につくったPCコーナー

無垢材と漆喰壁と石材の美しいコントラスト

世界で一つだけのオリジナルの家にする

「住まいの心地よさの基準」についていろいろとお話ししてきましたが、基本的に家づくりとは、お客さまのご希望をできる限り叶えることです。和モダンのリビングにしたい、漆喰壁がほしい、大きな収納がほしい、キッチンのパントリーは1畳以上ほしい、ウォークインクローゼットがほしい──そういったご要望はすべてプランに組み込んでいきます。

いろいろなご要望にお応えしてきました。

趣味に関連する空間についてのご要望もいろいろあります。私たちもこれまでにさまざまな部屋をつくってきました。膨大な量の蔵書をお持ちだったり、レコードを何千枚も所有していらしたり。本格的な自転車を3台もお持ちで、それらを室内の天井から吊るせるようにしたり。プロ仕様の釣りやキャンプ用具を効率的に収納できる部屋をつくったこともあります。スタジオばりのオーディオルームもつくりましたし、もっとも変わったところでは、時計づくりのための部屋をつくったこともありました。

私たちカナザワ建築設計事務所は、つねに建築士として持てる知識と技術のすべてを注ぎ、お客さまのご希望を実現します。

一割のプラスαが生む夢のかたち。

その上で、お客さまが言葉にできない何か──プラスαの味付けを、私たちは頭をしぼって考え抜きます。その味つけは全体のわずか1割にも満たない要素だけれど、その1割の要素が家の個性を大きく形づくり、お客さまだけの、オリジナル仕様の家にしていくのです。

おそらくそれは、これまでにご説明してきたような、空間をつなげたり居場所をつくったりといった、ちょっとした形やバランスの工夫と、お客さまのご希望とが組み合わさって生まれるもの。お客さまの夢と私たちの知識と技術が一緒になることで、世界で一つだけの、オリジナルの家が完成するのです。

1 竹材をふんだんに使った手の込んだ天井

2 上質なアンティークの建具を用いた和室

3 玄関のすぐ横に設えた清潔感あふれる手洗い場